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阿ノ音の短

ここでは、短編、を載せていきます。
短編といっても、本当に短い物から、長い物まで色々です。
終わらない物もあるかもしれません。
とにかく、物語を掲載していきます。

今回は(いつまでもいつまでも)という題名です。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しく思います。





いつでもいつまでも





物には思い入れがあるものとそうでもないものがある。思い入れのあるものは、他人から見れば、一円の価値もないかもしれ
ない。
だが、思いれのあるものは、人との出会い以上に価値がある。
物との出会い。
人との出会い。
違いは、物には感情がなく、無生物だということ。
だから、人によって価値があるものとそうでないものがある。
価値のあるものは、その持ち主が一方的に感情を与え、一方的に物の感情を聞く。

僕にとって、価値のある物とはいったいなんなのだろうか。
おそらく、変てつな物に価値をみいだすことだろう。
変てつな物は、他と違う何かがあり、他人が持っていないものである。
それは、独占しているといっていい。
そう、独占、希少なものが、価値なのである。
だが、それは、時として、孤独を招く。
一人よがりの代物で誰一人として理解してくれない。理解してくれとは言わないが少しでも分かってもらいたい。だが、全てを理
解してもらいたくない。

「そんなものさ」

もちろん、君は、黙っている。ずーと、僕が生きている間、そして、君が何かの拍子にいなくなる間まで。

僕達は、山に居た。
「ねえ、ここって素敵よね」
彼女は言った。
「ああ」
僕は、低い声で言った。
「いま、ここにいるのは私達二人だけなのよ」
「ああ」
「そうね、世の中の反対をいっているのね、素敵だと思わない?」
「うん、素敵だと思う」
「今、こうしている間に、私達に係わりあいのある人たちはどう思っているのかしら」
「きっと、君の事を心配しているさ」
「さあ、どうかしら、案外、私がいなくてせいせいしている人たちが沢山いると思うの」
「まさか、君がいなくて寂しがる人は居ても、せいせいする人はいないさ」
「そんな事ない。私が居なくてせいせいする人って大勢居るの」
「まさか」
「あら、私って、悪い人間よ」
「自分の事を悪いと口に出して言う人間で悪い人はいないさ」
「あなたはどうなの」
「俺は、いい人間さ」
「自分の事をいい人間って言う人に、悪い人間っているかしら」
「たいてい、悪い人間さ」
「そうかしら」
彼女は、微笑んだ。
微笑むと、小さな口からみえる八重歯が印象的だった。
「少なくとも、俺は、君が居なければ寂しいけれどな」
「それって、本当なの」
「さあね」
彼女は僕に背中を向けた。
長い髪からほのかな香りの粒子が僕にふりそそがれた。

僕は、タバコに火を点けた。
煙の行方を目で追う。
煙は天井に向かい漂う。
漂った煙はいったい何処に向かうのだろう。
天井に着くもの、天井から抜け出すもの。
行き場が見つからなくて永遠にただようもの。
永遠?
永遠なんてありえないさ。
形あるものはいつかなくなる。
僕だって、いつかは居なくなり、僕の存在はきっと、跡形もなくなってしまう。
無になるのさ。
僕は、時として無になりたくなる。
だが、それは、この物に対してそんなことは出来ない。
僕が見守らなくては、誰が、見守る。少なくとも、僕が居る間だけは見守らなくてはならない。
それは、やはり、独りよがりなのか。
煙を吐き出す。
煙は、やはり漂う。
煙は、感触がない。
つかめないのだ。
実体があるのに感触がない。


「自由って素敵じゃあない」
「ああ、でもあまりにも自由だと、何も出来ないよ」
「あら、なんで」
「自由は、何でもしてもいいって言う事だ、例えば、今、俺が君を襲うのも自由だし、君に何をしても自由だ、だが、そうすること
によって、君は傷つく、傷つくことによって君は不自由になる。だから、なにも出来ない」
彼女は、僕の目を覗き込んだ。
「あら、かまわないわ、あなたが私に何をしようと、それが自由の良いところよ」
僕は、彼女のかぶっている真っ白なハットをとった。
彼女の長い髪が風で乱れた。
「俺は、君の帽子を取った。この帽子を君に返さないかもしれないよ」
僕は、ハットを掴んだ片手を高くあげた。
「あら、そんなのあなたの自由だわ」
彼女は、風になびく髪を押さえて言った。
「もし、帽子を取ったのが俺でなくて、君の嫌いな奴ならば」
「そうね、帽子は取らせないわ、そして、そんな人に近づかないわ、取られるのも自由なの」
「それは、自由じゃあないんだ」
「そうかしら」
「そうさ、もし、君が行きたい場所があるとする。そこへ行くのは一つの道しかない。でも、嫌いな奴がそこに居る、君はその、嫌
いな奴の傍をどうしても通らなくてはならない。君はどうする?嫌いな奴の傍を通るか、そこに行くのをやめるかどっちかだ」
「自由には、不都合なことがあるものなのよ、それが自由なんだから仕方ないの」
「それって、不自由なんじゃあないかな」
「そうかもね」
車のヘッドライトとテールランプがアリの行列のように繋がっていた。
「ねえ、帽子返して」と彼女は片手を僕の方へ差し出した。
ぼくが彼女に渡すと彼女は、帽子をフリスビーのように飛ばした。
彼女の白いハットは夜風に乗せられ、ビルの屋上から闇へと吸い込まれていった。

そう、あの時は、ビルの屋上に居た。
タバコを吸い終えると僕は、コーヒーを飲み、その物を見ている。
どこにでもあるようで、何処にもない。
僕にしか分からない。
だけど、ある人が見れば分かるかもしれない。
だが、分かったとしても、たいていは、何かズレている。



                                      
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