赤根神社は初詣の客で賑わっていた。 普段は、ひっそりとしているこの神社は年初めの三日間はこの時とばかりに人々は神社に参拝する。おみくじを買ったり、お守 りを買ったり人々はそれぞれ、今年一年の祈願をするのである。 里美と綾香もそんな中の二人である。 二人は、賽銭箱に小銭を入れ参拝した。 「ねえ、綾何お願いした」 「月並みの事、聞いているんじゃあないの」 「いいじゃない。教えてくれたって」 里美は膨れ面をしてみせた。 「あんたね。もう二十歳なんだからそんな顔しないの」 「別にどんな顔したっていいじゃあないの」 綾香は里美の顔を見て微笑んだ。 「それにしても、お互い、どうしてこんな所に二人で来ているのかね。暖かい国にでも行ってビーチで寝転がりたいね」 そう言うと綾香は溜息をついた。 「あー、綾、そんな事お願いしたんだ」 里美が言うと綾香は顔を赤くした。 「すみません、そこのお二人さん」 二人の背後から男の声が聞こえた。 二人は振り向くとそこには黒いスーツを着た肩まである長髪の男が二人を見つめていた。 顔の色が白く端正な顔立ちで長髪が似合っていた。 「何ですか」里美が言うと「行くわよ里ちゃん」 と、綾香は里美の腕を引っ張り彼に背を向けた。 里美も綾香に腕を引っ張られ、彼から背を向けた。 「いやー、冷たいねお二人さん」 二人は立ち止まった。 背後にいた男は二人の目の前で両手を広げ微笑んでいた。 「何も捕って食おうっていうんじゃあないんだよ」 「どうですかね」 綾香は言った。 「お嬢さんたち怖いね。俺がそんな事をすると思うのかい」 「思わない」 里美は男を見据え微笑んで言った。 「里ちゃんそんな事言ったら駄目」 綾香は男を睨み付けて言った。 「なんか、君は男に対して嫌悪感を抱いているようだね」 「そんな事ないです。ただ、貴方が怪しいからです。行こう」 綾香と里美は男を避けて歩いていった。 「また会おう」 男は背後から大きな声で言った。 二人は、お守りを買い鳥居に向かって歩いていた。 「ねえ、綾、なんか人が居なくない。さっき、あんなに人が居たのだよ」 綾香は周りを見渡したが、人は大勢いる。 「里ちゃん何変な事言っているのよ」 綾香は言った。 「残念ながら里ちゃんの言っている事は正解なんだな。君のほうが間違っているのだよ」 男が二人の目の前に居た。 「まだ、居たの貴方に用事はないから私たちの目の前から消えて」 綾香は、まくしたてて言った。 「そうでしょう。人が居ないのよ。私の言っている事は間違いないよ綾」 里美は普段の口調で言った。 「どうかしてるよ」 綾は言った。 「よく、見てみるといい。ここは、人が殆どこない場所なのだ。さっき、君たちが居た場所は神社じゃあない。ただの店さ。神様な んていないよ。ここが、本当の赤根神社なんだ」 綾香は辺りを見回している。 「どうだい。人など居ないだろう」 男は両手を広げて言った。 「確かに居ない」 綾香は里美を見て言った。 神社は確かに先ほどと場所が違う。 ひっそりと広葉樹に囲まれたその神社は趣を感じさせる。 「この神社はね、知る人しか知らない神社なんだ。誰でも来られる神社じゃあない」 男はそういうと神社に向かって頭を下げ目を瞑った。 「ここはね、神聖な場所なんだ。まずは君たちも神社に敬意を払って僕みたいに頭を下げるんだ」 二人は言われたように頭を下げて目を瞑った。 木漏れ日が二人の体を暖かく向かえた。 男は頭を上げ、髪を掻きあげた。 「もういいよ、君たちの敬意は神社に伝わった」 二人も頭を上げ神社を見つめた。 木漏れ日の為か神社は薄っすら光を放っているように見える。 「ねえ、賽銭をあげなくていいの」 里美はハンドバックから財布を取り出そうとした。 男は里美の手を押さえ首を横に振った。 「ここは、賽銭なんて要らない。君たちのような心の持ち主が神社に敬意を払う。それが神社に伝わり神社は成り立っているん だ」 「へーえ、そんなことって信じられない」 綾が言った。 「見ただろう。神社に光が射すのをこれが君達の敬意が伝わったということなのさ」 「神様ってこの中に居るの、もし居たらどんな格好をしているの」 里美は男を見上げて言った。 「神様なんて居ないよ。それは私達が作り上げたものなの」 綾香は言った。 男は微笑んだ。 「神様は居るよ。ただ、どんな格好をしているかは分からない。それは、人によって見え方が違うんだ。だけどね、神様に願い事 をしたりしないほうがいいよ。願いとは流れ星にするものだから」 男は微笑み神社とは逆にある鳥居の方へ歩き出した。 「さあ、帰ろう元の場所に。ただ、僕は、君たちにここを見せたくてね。捕って食わなかっただろう君たちを」 男は二人を見つめた。 三人は鳥居を抜けるとそこは元の人で賑わう赤根神社に居た。 「私、さっきの場所の方が好きかもしれない」 里美が言うと綾は頷いた。 「どうして、あそこの場所を知っているんです」 綾香が男に言った。 男は振り向いた。 男は、訝しげな目で二人を見たが、人込みの中へ歩いて行った。 「あれ違う人だよ今の」 里美は言った。 先ほどの男ではなかった。確かに男の後について歩いていた。 綾香は、男から視線をそらさなかったはずである。 「何処に行ったのかな、あの人」 綾香は辺りを見回して言った。 男の姿は無かった。 里美と綾かはお互いの顔を見つめあった。 「綾、何お願いした」里美が言った。 「里ちゃんと同じ事だよきっと」 二人はお互いの顔を見て微笑んだ。
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