架かる橋  2.

高速を降り泰子の指示どおり僕は車を動かした。車はカーブが連続する山道を走っていた。
「なあ、ここは海に繋がっているのかい、山の方に向かっているとしか思えないんだけど」
海に行くどころか標高が高くなっている。これでは海に行くどころか山の頂上に言ってしまうのではないかと思え
る。
「大丈夫よ、道は合っているはずなのよ」
泰子は前方を見据えていた。
「君の聞き違いじゃあないのか」
「そんなことないわよ、母さんに聞いたときはこの道だって言っていたわ。それに、この道は何度も通っているの
よ、夢の中で。私は子供の頃から曾ばあさんの話を聞いて育ったのよ、夢に何度もでてきて、この道を通って海に出
るの。それに、母さんに何度も道を聞いたわ。母さんは何度か海の向こうへ行ったことがあると言っていたの。元々
こちらの人だし、でも、私が生まれてからは一度も行った事がないんだって。わたしが行きたいって言ったら、それ
は私が大人になってから行くものだよって教えられたの。それに、私は、何故か遠くに行けないじゃあないの。貴方
と付き合ってから良く分かったわ、遠くに行くと気がおかしくなるのよ。貴方と一緒なら大丈夫だと思い、何度も克
服しようと思ったわ、でも駄目だったのよね。だけど、気が付いたの、ここに来るのは遠くではないと、近くなの。
何度も何度も夢の中でここまで来た事があるから、凄く身近に感じられるの。でも、貴方と一緒でないとだめなの
よ、あなたと付き合ったから、ここまで来られるようになったのよ。それは、貴方が凄く身近な存在になったからな
の。私の生活の一部になったって言うべきかしら、だから、他の人とでは来たくても来られないのよ、一人でも無理
なの、貴方と一緒でないと」
「そうか、うれしいね、俺じゃあないと駄目なのか。でもさ、もし、他の男と付き合っていたとしたら」
「それは、ありえないの、だって、私は聡史(さとし)と会うべきして会った。会いたいから会ったんじゃあない
の。会うことが決められていたから会ったのよ。これは、運命なのよ。もし、なんてありえないの」
「そうかもしれないが、他の可能性だってあったわけだろう。もし、泰子があのアパートにいなかったら、もし、俺
が、泰子と違う大学に通っていたとしたら、もし、あの日雨が降っていなかったらなんて、少し何かの手違いがあれ
ば君と僕は出会っていなかったんだよ。俺と泰子が出会ったのは偶然の重なり合いで出会っていたんだ。もし、を考
えなかったとしたら、天気予報なんて成り立たないわけだよ。すべてが、もし、で出来ているんじゃあないのかな。
泰子と僕だってそうだよ。もし、僕の言った事で泰子が気分を害したらどうしようと考えて、言葉が生まれる。も
し、こういう言葉を言ったら喜ばれるだろうとかね、もしもを考えなかったとしたら、泰子と俺はとっくに別れてい
るだろう。」
泰子は、僕の方を見て微笑んだ。
「ねえ、その、もし、があるから私たちはうまくいっているっていうことね。それは貴方の言うとおりだわ。でも、
結果に対してはもし、ってありえないの。もしもって考えても結果はもし、じゃあないのよ。結果は、もしでは成り
立たず、事実でなりたっているのよ。もしは、結果に繋がる過程で遠回りな、だけなのよ。」
「すべては、そうなるようにできているということかい」
「そうなのよ」
「でも、先のことは分からないだろう」
「だから、楽しいのよ。たとえ何が起こるか決まっていたとしても、先の事は分からないわ、例えば、映画を観たと
するわね、全て、ストーリーは決まってしまっているの、既に完成しているからね。でも、観るのは何が起こるか分
からないから楽しいじゃあない。それと、同じなのよ」
「うーん、そうか、そうだね」
「でも、何度も繰り返して映画を観るのも面白いわ」
「忘れているからね」
「違うの。たとえ覚えていたとしても、違った発見があるからなの。ストーリーを知っているうえで観ると、この時
こうだからこうなるって何かの法則を見つけることが出来るわ」
「だから、大人になっていくんだね」
「そうよ」
「ふーん、泰子は、そうやってものを考えているんだね。これも、初めての発見だ」
「貴方も、私と考え方が似ているのよ」
「そうかな、俺は、特に考えずに生きているけどね」
「そういうところが貴方のいいところ」
僕は、ゆっくり、坂道を走った。
泰子とこんな話をしたのは初めての事である。
もし、の事を考えるとどうしてもカーブにハンドルを動かす手が速度についていけなくなりそうだったので車をゆっ
くり走らせた。
ルームミラーを見ると後続車が二、三台繋がって腹立たしそうに車間距離を詰めていた。
僕は、適当な後続車をやり過ごせる広場を見つけてウィンカーを出し車を止めた。
車は後方から三台続けて凄い勢いで走り去っていった。
「何であんなに急いでいるのかね。少し休憩しましょう。」
泰子はそう言うと車を降りた。
僕も車を降り、手を広げて深呼吸した。
さすがに四時間、運転のしどうしは疲れた。
                                               続く
 
 
     

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