贈 り 物

2003.12.24(水)





鈴の音が聞こえる。
色とりどりの音色が心地よく脳を刺激した。
懐かしくも、儚くもある。
隣を見ると女性が小さな口で静かな吐息をしている。
太一は、静かにベッドから抜け出し、冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出しグラスに注いだ。
音色がさらに大きくなり太一の頭の中を占領していた。

「寒いよ、何しているの。早く戻って」
ベッドから声が聞こえた。
太一はベッドの方を見据えた。
暗闇の中から薄っすら彼女の視線が感じられた。
太一は、グラスに注がれた水で喉を潤しベッドへ戻った。
「あなたって、暖かいわ。こうしていると、凄く癒されるの」
彼女は言った。
太一には彼女の声が聞こえたか聞こえないか良く分からなかった。
「ねえ、聞いているの」
彼女は太一の耳元で囁いた。
太一は軽く頷いた。
「今日って何の日か知っている。特別な日なのよ。私とあなたが出会った。ねえ、聞いているの」
太一は、彼女を見つめ頷いた。
「普段ならば通りすぎていたの。私はあそこの場所を毎日通り過ぎていたわ。でも、何故か、今日は立ち止まったの。私があな
たを見るなんて思っても見なかったわ」
「うん」
太一は、物静かな低音で答えた。
「あなたは今まで何処に行っていたの。ううん、詳しくは聞かないわ。でも、何故あそこに居ることを教えてくれなかったの」
太一は首を横に振った。
音色は鳴り止まなかった。彼女の言っている事は聞こえているのか聞こえていないのか分からない。
「無口になったわね。でも、あなたが洋服屋さんなんて思いもよらなかったわ。初めは分からなかったのよ。貴方かどうか。でも
ね、すぐに分かったわ。あなたの付けている名札を見てね」
そこまで話すと彼女は太一の胸に頭をうずめた。
「ちゃんと、生きているわね。心臓の鼓動が聞こえる」
彼女は呟いた。
「貴方はいつも、太一って名札に書くじゃあない。苗字は絶対に書かなかったわ。前の会社では、印刷された苗字を油性ペンで
わざわざ消していたわね。貴方が髪を伸ばしていることで気がつかなかったのよ。ほら、あなたは、髪を伸ばす男の気がしれな
い、ってよく言っていたのにね」
彼女は彼の髪をそっと撫でた。
「こんな話はどうでもいいわね。ただ、今日はあなたとわたしが出会った。ううん、再会したって言った方がいいかしら。そうね、
どちらでもいいわ。」

太一は彼女を抱きしめた。
彼女の話は良く聞き取れなかったが、強く抱きしめたい衝動にかられた。
彼の頭の音色は耳から飛び出してきた。
やがて、鈴を持った小さな小人が何人も飛び出した。
この世で見ることの出来る様々な色の服を着た小人たちだった。皆、手には鈴を持っている。太一と彼女の周りは小人たちの
音色と色で満たされた。
「素敵な小人たち。ありがとう」
彼女は呟いた。



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