「いやー、気分はどうだい。」 「あまり、良くないんだ。悲しいよ。」 「何がそんなに悲しいんだい。」 「僕が大切にしていた腕時計が壊れたんだ。」 「直せないのかい。」 「うん、時計屋にもっていったら、部品がないんだって。」 「そうかい、それは、それは。」 「この時計はね、僕が、高校の入学祝いに今は亡き爺さんから貰った大切な時計なんだ。」 「そうかい、その時計を見て爺さんに出会ったわけだね。それで余計に気分が寂しくなったんだ。」 「また、君は変な事を言うね。爺さんはこの世にはもう居ないんだよ。居ないから会えないんだ。だから、会えないことに対して 悲しいんだよ。出会ったから悲しいんじゃあないんだ。」 「君は、時計が壊れた事が悲しいのかい。それとも、爺さんに会えないことに対して悲しいのかい。」 「両方だよ。両方に決まっているじゃあないか。」 「じゃあ、こういうように言えなくはないかい。」 「どういうようにさ。」 「その時計が壊れた事で、爺さんに出会うことの繋がりがなくなったから悲しいと。」 「爺さんに出会う事の繋がり?君の言っていることはよく分からないよ。」 「じゃあ、説明するね。爺さんと出会う事の繋がりっていうのは、その時計が動いていた時、君は爺さんと出会っているよね。で も、今は、会えない。」 「爺さんは、時計が動いていた時には確かに居たよ。確かに会っている。」 「そう、その時のことを思い出しているじゃあないか。爺さんが存在していたときのことを。頭の中で爺さんと君は、出会っている んだ。」 「うーん、そう言われるとそうなのだが、それは、頭の中で出会っているのであって実際に出会っていないんじゃあないのか な。」 「実際に過去出会っていたじゃあないか。その時、君は頭の中で爺さんを認識している。おいらと、今出会っているわけだけれ ども、君はおいらを何処で認識しているんだい、頭の中だろう。」 「まあ、そうだろうね。」 「そうさ、だから、時計が壊れると、爺さんとの思い出の一つが失われてしまいそうな感じがするんじゃあないのかい。」 「そんなことないさ、思い出は失われないよ。」 「じゃあ、何で、悲しいんだい。新しい時計を買わなくてはいけないからかい。」 「違うよ、そんなことじゃあない。」 「その時計が動かなくなり、爺さんが居たときの状態と違ったものになってしまい、現実のそのままの思い出が失われれてしま うから悲しいんだ。」 「うーん、君の言っている事はよく分からないよ。」 「新しい出会いがないから悲しいんだ。」 「うーん、よく分からないけど逆に新しい出会いがあれば嬉しいものだよね。」 「そうだね、希望に満ちている。でも、それと同時に不安もある。」 「まあ、そうだね、不安と期待が入り混じっているのかな。」 「そうさ、その期待と不安は決して悲しくないものだよ。」 「そうかな、そういわれるとそんな気がするけれど、もし、会いたくないような嫌いな人だったらどうするんだい、君が言う、新しい 出会いは悲しくなるのではないのかい?」 「悲しくはならないだろう、嫌なだけで。」 「それならば、新しい出会いがなくなったらどうなるんだ、悲しくはないだろう。逆に嬉しいかもしれない。」 「それは、人それぞれだろうね、嬉しいと思う人もいるかもしれないし、悲しいと思う人もいるかもしれない。でも、どんな、嬉しい 人がいるとしても、悲しむ人が少なからずいるはずだよ。」 「いなかったら?」 「悲しいね。」
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