2.−2 遮られた光




蛙は、僕に背を向け、動き出した。その後ろ姿は僕について来いって言っているようだったよ。だから、僕は、蛙について行っ
た。
蛙は、一メートル位飛び跳ねて、二三秒静止して、また一メートル位飛び跳ねて、二三秒静止することを繰り返して動いたん
だ。
一メートル位飛び跳ねるのは見るものを圧倒するよ、体が大きいのもあるけれど、そこから繰り出される動きは、ダイナミック
で、とても、優雅なんだ。素晴らしい光景だね。
蛙は、路地をゆっくり飛び跳ねたんだ。
時折、人とすれ違ったけれど、誰も蛙に興味を示さなかったね。
皆、前方を向いて道に目を向けていないんだ。僕は思ったよ、こんな素晴らしい光景を見過ごすなんてもったいないと。
蛙は大きな門の前で止まったんだ。漆喰の壁で囲まれたその門は、扉が木で出来ていた。
蛙は「ギコギコ」って門扉の前で鳴いたんだ。すると扉が開いた。木が軋む音を奏でてね。蛙は中に入っていったよ。僕は、中
に入りたかったけれど中に入れなかったね。だって、中は、とてつもなく広いんだ。ゴルフ場みたいな芝生が広がっていてその
先にお城みたいな家があるんだ。
蛙は、中に入っていったんだ。ゆっくりとね。
僕は暫くその光景を見ていたんだ。
やがて蛙は小さくなって見えるようになったんだ。ぼくは、門から背を向けて帰ろうとすると後ろから声が聞こえたんだ。
「お待ちになって下さい、お坊ちゃま」
どこからどうやって現れたのか分からないけど、後ろを振り返ると白髪の品がある老人が立っていた。
さっき、見たときには広い敷地には人の影も気配すらなかったよ。ただ、僕が見過ごしただけかもしれないけれど。
僕は、無視して帰ろうと思った。だってね、「お坊ちゃま」とか言われても僕はこの人を知らないわけだし、僕は、お坊ちゃまでも
何でもないのだからね。
この老人は、きっとボケてしまっているんだと思ったよ。
「お待ちになって下さい、お坊ちゃま」
また、丁寧な言葉で言うんだ。
僕は、後ろを振り返らず走ったね、こんな所で道草を食っていてはしょうがないと思ったからね。



                                           


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