蛙は、僕に背を向け、動き出した。その後ろ姿は僕について来いって言っているようだったよ。だから、僕は、蛙について行っ た。 蛙は、一メートル位飛び跳ねて、二三秒静止して、また一メートル位飛び跳ねて、二三秒静止することを繰り返して動いたん だ。 一メートル位飛び跳ねるのは見るものを圧倒するよ、体が大きいのもあるけれど、そこから繰り出される動きは、ダイナミック で、とても、優雅なんだ。素晴らしい光景だね。 蛙は、路地をゆっくり飛び跳ねたんだ。 時折、人とすれ違ったけれど、誰も蛙に興味を示さなかったね。 皆、前方を向いて道に目を向けていないんだ。僕は思ったよ、こんな素晴らしい光景を見過ごすなんてもったいないと。 蛙は大きな門の前で止まったんだ。漆喰の壁で囲まれたその門は、扉が木で出来ていた。 蛙は「ギコギコ」って門扉の前で鳴いたんだ。すると扉が開いた。木が軋む音を奏でてね。蛙は中に入っていったよ。僕は、中 に入りたかったけれど中に入れなかったね。だって、中は、とてつもなく広いんだ。ゴルフ場みたいな芝生が広がっていてその 先にお城みたいな家があるんだ。 蛙は、中に入っていったんだ。ゆっくりとね。 僕は暫くその光景を見ていたんだ。 やがて蛙は小さくなって見えるようになったんだ。ぼくは、門から背を向けて帰ろうとすると後ろから声が聞こえたんだ。 「お待ちになって下さい、お坊ちゃま」 どこからどうやって現れたのか分からないけど、後ろを振り返ると白髪の品がある老人が立っていた。 さっき、見たときには広い敷地には人の影も気配すらなかったよ。ただ、僕が見過ごしただけかもしれないけれど。 僕は、無視して帰ろうと思った。だってね、「お坊ちゃま」とか言われても僕はこの人を知らないわけだし、僕は、お坊ちゃまでも 何でもないのだからね。 この老人は、きっとボケてしまっているんだと思ったよ。 「お待ちになって下さい、お坊ちゃま」 また、丁寧な言葉で言うんだ。 僕は、後ろを振り返らず走ったね、こんな所で道草を食っていてはしょうがないと思ったからね。
|
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||