2.−3  遮られた光



どれくらい走ったのかな,、息をするのがやっとで暫くその場で息を整えていると水分が欲しくなったんだ。無性にね。当たり前だ
けど。
「はい、お水でございます」
またあの老人が立っていたんだ、それも、すました顔をして片手で透明なグラスを持ってね。
そのグラスは、柄なんか何もない透明なんだけど、これが、透明だと主張しているように透き通っていたね。周りに水滴がひし
めきあっているように付いていて、純度100パーセントの水が中に納まっているみたいな感じなんだ。
僕は、たまらずそのグラスを手に取り水を飲んだね。
一口飲むとなんだか爽やかな風が喉を通り過ぎていくんだ。
そして、喉が自動的に水を流し込んでいくように感じたね。
こんなに、水が体を爽やかにしてくれるものなんて思わなかったな。
「もう一杯いかがですか」
老人はにこやかに言ったんだ。
[いや、いいです」
と僕は、グラスを老人に手渡した。
老人はグラスを受け取ると「さあ、屋敷にお入りくださいお坊ちゃま」と言った。
老人は右手の手のひらを上に向け、僕から見て左側に指先を向けたんだ。
老人の指先の先を見ると、さっき、蛙が入っていった屋敷が見えたんだ。
確かに、僕は、屋敷から離れて走ったはずである。
それが今は、その屋敷を見ている。それに、老人が、僕の目の前にいるんだ。
「さあ、ご案内します」
老人は僕に背を向けて、屋敷のなかに歩いていった。
僕は、また、逃げようと考え、後ろを振り向くと、そこには、漆喰で囲まれた門があり、扉が閉じられていたんだ。
あの老人はマジシャンだと思ったね。
話し方といい、格好といい、何だかテレビによく出てくるマジシャンそのものだよ。
少し年をとっているけれど。
僕は、そのマジシャンの手中にはまってしまったんだ。
新しいマジックを試そうと、僕を選んだんだ。
僕は、そう思ったね。
仕方なしにその老人の後ろを付いていって屋敷の中に入ったんだ。










                                            


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