「さあ、こちらでございます」 老人の後をついて屋敷の中に入ったんだ。 屋敷は薄暗く、湿った空気が鼻を突くような感じがした。 老人はゆっくりとした足取りで廊下を歩いていったんだ。 周りには壁しかないよ、その壁には、上半身だけの人の絵がずらーって並べてあったんだ。 何枚も何枚も、男性、女性、老若男女っていうのかな、色んな人の顔があったね。 なんだか、気持ち悪いよ。どれも、表情がなく、まっすぐ前を向いているんだ。 これだけ、絵が並べてあると、皆、僕の方を集中して見ている感じがするんだ。 絵は、ずーと続いていたよ。 廊下は、百メートルぐらいのところが行き止まりで扉があり、左右にまた長い廊下が続いていたんだ。 老人は、そこの扉の前で立ち止まり、扉を開けた。 「さあ、こちらへどうぞ」 老人は手を扉の中へ向けたんだ。 中を見ると、薄暗い部屋があった。 僕が中へ入ると、「ごゆっくり」って老人は外から扉を閉めたんだ。 部屋の中心にはセンターテーブルが置いてあり、その向こう側には一人がけのソファーがありこちら側には三人がけぐらいのソ ファーが置いてあるんだ。ソファーの色は、薄暗くてよく分からないけれど多分、茶色だよ。 「これは、これは、ようこそ」 一人がけのソファーには、男が座っていて、低い声で言ったんだ。 僕は、声が出なかったんだ。 突然の事でびっくりしたからね。 「この、蛙があなたを、選びました、なるほど、あなたは、若くて、好奇心旺盛なようだ、そして、足が速い、そして、体力もあるよ うだ。そして、君は、大勢でいるより、一人でいる方が好きなようだ」 男は立ち上がった。 占い師みたいな事を言うだろう。 僕の事は、何でも分かるってみたいに。 確かに、僕は、好奇心もあるし、人より足が速いし、大勢でいるより一人でいる方が好きなんだ。だけど、今から考えると、それ は、誰にでも当てはまる事なんだよ。足が速いなんて、僕より速い人なんて沢山いるわけだしね。 でも、僕は、初対面でこんなこと言われ、萎縮してしまったんだ。 男は、白いシャツを着て、白いズボンを履いていた。顔がよく見えない。顔だけが黒く影になっていて表情がわからない。年をと っているのか若いのか分からないんだ。 手には、さっきのあの大きな蛙を両手で持っているんだ。 蛙は、僕を見つめていたんだ。 「さあ、おかけになってください」 男は、蛙を前に突き出したんだ。 僕は、うなずいて三人がけのソファーに座った。 僕が座ると男は蛙をテーブルの上に置いて胸ポケットからタバコを取り出し、ジッポのライターの蓋を甲高い音を鳴らして開け、 火を点けたんだ。 音は、部屋の中に響いたよ。 蓋を開けた甲高い音の後、火が付くときの低音の音。 高い音の後に低音、激しい曲が始まる前の、序章っていう感じなんだ。 男は、青白い炎にくわえたタバコを近づけタバコに火をつけて口から煙を吐いたんだ。 一回煙を吐いただけで、後は、なんと、蛙の口元に持っていったんだ。 タバコが消えたんだ。蛙の目の前で。 蛙は、口をもぐもぐ、動かしていた。 「この蛙は、火のついたタバコが大好物でね」 男は、笑ったような口調で言ったんだ。 表情は、影で見えないけど、見えたとしたら、多分口元を斜めにゆがめ、笑っていたんだと思うよ。なんとなくね。そういう感じが したんだ。 もちろん、僕の想像なんだけどね。他の人は、どのように想像してもらっても構わないよ。
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