1.部屋の中




アパートの部屋に戻り、電気のスイッチを押した。
部屋は明るくなり、いつもの散らかった部屋が目の前に広がった。僕は靴を脱いで
部屋の中に入ろうとした。だが、できなかった。
そこには、いつもの部屋はなく、螺旋階段が上に続いているのが見えるだけだった。
螺旋階段だけが明るく光り、周りは何も見えない闇が浮かび上がっている。
僕は、部屋を間違えたと思い、ドアを開けようとした。
だが、ドアは開かない。
何度もノブをひねり、ありったけの力をかけたが、ドアはびくともしない。
それでも、諦めずにノブをひねっていると、ノブの感触が薄れてきた。
ノブから手を放すと、ノブは半透明になり、やがて消えてしまった。
ノブが消えるとドアも消え、闇が浮かび上がってきた。
やがて、光輝く螺旋階段が下へ続いていくのが見てとれた。

僕は暫くの間、今置かれている状況を考えてみた。
これは、夢だと考えた。だが、夢と現実の区別ぐらいはすぐ分かる。
それでは、これが、死後の世界なのかと考えた。
何かの理由で死んでしまって、死んだ事に気がつかないまま家に戻ってきた。
これは、天国や、地獄に繋がる階段なのだろうか。
だが、死んだにしては、体の感覚がありありとしていすぎる。
今、ドアを開けようと力をいれた事で、体が汗ばんでいるし、腕が少々痛む。
それでは、これは、誰かのいたずらなのだろうかとも考えた。だが、こんな手の込んだ
いたずらをいったい誰がするのだろう。
ここまで、考えると、急に不安になった。
いったい、ここは、何処なのだろうか。何なのだろうか。
あきらかに今の状況は、普通ではありえない。
夢でも、死んでいても、いたずらでも、おかしくない。
考えれば考えるほど混乱してきた。

僕は、考える事を放棄した。
考えてみたところで、仕方がなかった。考えたところで、今の状況をどうする事もできな
いからだ。
死んだ、爺さんがよく言っていた。
「じっとしていても、何も始まらん。まずは、動く事だ」
         
とりあえず、僕は階段を上がる事にした。
「迷ったら、高いところへ行くのだ。高い所の眺めは最高だぞ。眺めているとやがて、一
本の道が見えてくる」
僕は、爺さんにこう教えられた。






トップ2.夏の冷蔵庫3.爺さんの領域   4.高いところの眺め 螺旋階段





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送