4−1 高いところの眺め
                                                                       

何段階段を上っただろうか。上を見ても、下を見ても、同じ階段が永遠に続いているように思える。
天国と地獄に繋がる階段なのだろうか。
どこまで上ればいいのだろう。
僕は、その場に座りこんだ。
階段は、ひんやりしている。
僕は、額の汗をぬぐい深呼吸した。
「爺さん、高いところに行っても何も見えないよ」
僕は、呟いた。
階段を上っている間、爺さんや葵さんの事を、今、起こった出来事のように思い出していた。
アパートに帰るまでは爺さんに会った記憶はなかったはずである。
母親から戦争で死んだと聞いて、爺さんは生まれた時からいなかったと思い込んでいた。
今まで、僕は、あの、強烈な体験を忘れていたというのだろうか。
爺さんの言ったとうりだ。
「迷ったら高いところに上がることだ」
僕は、立ち上がり、上に向かって歩を進めた。

暫く歩くと、かなり上の方でぼやけた光が見えた。
階段を上がるにつれ、その光は次第にくっきりしてきた。
どうやら、その光は階段をゆっくり、下ってきているようだった。
僕が、五段階段を上がるのに一段下りるといったペースだった。
やがて、その光は、僕の一段上まで来た。
僕は、立ち止まり、光も止まった。
暫くの間、その光を見ていると、次第に何かの形に見えてきた。
まず、輪郭が見えてきて紙のようなものが動いているようだった。その動いている所は、光の粉を撒き散らしているようだった。
それは、羽だった。
「光輝く蝶々」
僕は、思わず呟いた。
ふわふわと空中に浮んでいて八十センチメートル程の大きさだ。
葵さんが爺さんと出会う時に見たとい蝶々だろうか。
葵さんの話を聞いた時、思い描いていた蝶々より実際に見る蝶々は、眩しいほどの光ではなく、うっすらした透明な光ですべて
が透けていた。
虹のような光に近いような気がする。
そのうち蝶々は、ふわりふわりと僕の頭の上に乗った。
体は急に軽くなり宙を浮いているような気分になった。
「早く、上に行きましょう」
僕は、蝶々にそう言われた気がして階段を上がる事にした。
体の重みはなく、月面を歩いているような気ぶんだった。









                    





        
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