何段階段を上っただろうか。上を見ても、下を見ても、同じ階段が永遠に続いているように思える。 天国と地獄に繋がる階段なのだろうか。 どこまで上ればいいのだろう。 僕は、その場に座りこんだ。 階段は、ひんやりしている。 僕は、額の汗をぬぐい深呼吸した。 「爺さん、高いところに行っても何も見えないよ」 僕は、呟いた。 階段を上っている間、爺さんや葵さんの事を、今、起こった出来事のように思い出していた。 アパートに帰るまでは爺さんに会った記憶はなかったはずである。 母親から戦争で死んだと聞いて、爺さんは生まれた時からいなかったと思い込んでいた。 今まで、僕は、あの、強烈な体験を忘れていたというのだろうか。 爺さんの言ったとうりだ。 「迷ったら高いところに上がることだ」 僕は、立ち上がり、上に向かって歩を進めた。 暫く歩くと、かなり上の方でぼやけた光が見えた。 階段を上がるにつれ、その光は次第にくっきりしてきた。 どうやら、その光は階段をゆっくり、下ってきているようだった。 僕が、五段階段を上がるのに一段下りるといったペースだった。 やがて、その光は、僕の一段上まで来た。 僕は、立ち止まり、光も止まった。 暫くの間、その光を見ていると、次第に何かの形に見えてきた。 まず、輪郭が見えてきて紙のようなものが動いているようだった。その動いている所は、光の粉を撒き散らしているようだった。 それは、羽だった。 「光輝く蝶々」 僕は、思わず呟いた。 ふわふわと空中に浮んでいて八十センチメートル程の大きさだ。 葵さんが爺さんと出会う時に見たとい蝶々だろうか。 葵さんの話を聞いた時、思い描いていた蝶々より実際に見る蝶々は、眩しいほどの光ではなく、うっすらした透明な光ですべて が透けていた。 虹のような光に近いような気がする。 そのうち蝶々は、ふわりふわりと僕の頭の上に乗った。 体は急に軽くなり宙を浮いているような気分になった。 「早く、上に行きましょう」 僕は、蝶々にそう言われた気がして階段を上がる事にした。 体の重みはなく、月面を歩いているような気ぶんだった。
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